ヨーロッパの雑誌事情

WYPのデンマークでの取材を終え、せっかく高い飛行機代を払ったのだからそのまま帰るのはもったいない!ということで8都市(ロンドン、パリ、ブリュッセル、アントワープ、アムステルダム、ベルリン、ミラノ、ローマ)、約70店舗の書店を見てきました。

今回はヨーロッパの雑誌、インディペンデントマガジンについて書きたいと思います。(ヨーロッパの本屋についてはこちら

 

そもそもの「雑誌」の立ち位置が違う

まず言及したいと思うのは、日本とヨーロッパで雑誌の立ち位置が違うのでは、と感じました。日本で「雑誌」というとコンビニや本屋に並んでいる印象がありますが、ヨーロッパで雑誌が売っている場所の代表は「ニューススタンド」です(そもそもヨーロッパにコンビニはほとんどないですが)。

イタリアのニューススタンド。(各国で正式になんて言うのかは分かりませんが、どこの国も似たような形態です。)

イタリアのニューススタンド。(正式になんて言うのかは分かりませんが、どこの国も似たような形態です。)

本屋はあくまで「書籍」が売ってある場所。もちろん駅構内の本屋に置いていることはありましたが、あれはどちらかというと「本屋に雑誌が置いている」というよりも「本屋とニューススタンドが一緒になっている」ように感じました。

ドイツの駅構内の雑誌たち。雑誌の数自体は日本の2倍、3倍ぐらい置いてあると思います。

ドイツの駅構内の雑誌たち。雑誌の数自体は日本の2倍、3倍ぐらい置いてあると思います。

そして「ニューススタンド」に売っている雑誌は「捨てることを前提とした雑誌、一時の暇つぶしのために読むもの」が中心です。ぺらぺらの薄い紙が多く、日本でも売っているニューヨークタイムズの紙を想像していただければ分かりやすいと思います。(もちろん『Numero』などのファッション誌は紙も分厚い物が使われていますが)

パリの人気本屋レキューム・デ・パージュの目の前の路上にあるニューススタンド。レキューム・デ・パージュには雑誌が1冊も置いていないのに、ここには『purple FASHION』はじめ日本でも人気のファッション雑誌が…。

パリの人気書店レキューム・デ・パージュの目の前の路上にあるニューススタンド。レキューム・デ・パージュには雑誌が1冊も置いていないのに、ここには『purple FASHION』はじめ日本でも人気のファッション雑誌が…。

日本にも安い紙を利用した週刊誌はありますが、分厚い紙を使ったものが多く、何よりも普通本屋に行くと「雑誌」のコーナーがあります。移動のときに読んですぐに捨てる、というよりは、「じっくり読ませる」、「コレクションさせる」という役割を雑誌が持っているからだと思います。また、コンテンツとしても『BRUTUS』や『POPEYE』、『アンドプレミアム』をはじめ、マスからコアなカルチャー好きの人まで楽しめる濃い内容になっているものもいくつかあります。そういう意味で日本の雑誌は書籍に近いように感じました。

そして、ヨーロッパの「雑誌不況」は確実に進むと思います。ニューススタンドに売っているものは「暇つぶし」のためのもので、SNSやスマホゲームに容易に譲ることができるからです。もちろん日本でも「雑誌不況」は進むと思いますが、「暇つぶし」以上のものを提供している雑誌は今後も残っていくはずです。(ちなみにですが、雑誌の種類はヨーロッパのほうが圧倒的に多かったです。)

ここまで書いていて、日本雑誌界の重鎮(?)である『暮しの手帖』のことを思い出しました。あの雑誌は雑誌でありながら「保存すること」を目的とされ、保存するための保存用帙(ちつ)まで売っていました。日本の雑誌がヨーロッパの「ニューススタンド型雑誌」と異なることを象徴していると思います。

さて、ただヨーロッパにもそんな「ニューススタンド型雑誌」と対照的ものがあります。「インディペンデントマガジン」です。

 

インディペンデントマガジンについて

まず、「インディペンデントマガジン」とはなんなのか。直訳すると「独立系雑誌」になりますが、自分なりに定義してみると、「特定の雑誌を中心として団体が成り立っている(独立している)もの」です。

昔からあるものだと『モノクル』、最近大人気なのが『KINFOLK』、日本では『トランジット』や『スペクテイター』だと思います。たとえば日本の雑誌界を席巻しているマガジンハウス系の雑誌は一つではなく複数の雑誌で成り立っているのでこの定義から外れます。他にも書籍等も出している出版社が出す雑誌も、中心が雑誌でない場合は外れます。前述した『暮しの手帖』はそういう意味では「インディペンデントマガジン」のはしりだと思います。

ロンドン・マグマブックショップに置いていたモノクル

ロンドン・マグマブックショップに置いてあったモノクル

ニューススタンド型雑誌は「普通の本屋」に売っていません。ではインディペンデントマガジンはどうなのか?それは前回書いた「アート系の本屋」に売っています。インディペンデントマガジンは「雑誌」というよりも写真集に近い感覚で売られています。つまり、「保存しておきたくなる」「集めたくなる」ようなものとして売られているんです。

では人気のインディペンデントマガジンは?「どこの本屋にも必ず置いているインディペンデントマガジン」は残念ながらなかったのですが(各書店色を出そうとしているので当然だと思いますが)、特筆すべきはやはり『KINFOLK』だと思います

 

KINFOLKの強み
出典:http://www.kinfolk.com/shops/magazine/subscription/

出典:http://www.kinfolk.com/shops/magazine/subscription/

KINFOLK』は、「Discovering new things to cook, make and do
(小さくて新しい発見の日々を送る)」を理念に、2011年に創刊されてからあっという間に日本語版、ロシア語版、韓国版も発行するに至った日本でも大人気のフードマガジンです。

その人気はヨーロッパでも健在でした。たとえば、イギリスの大手書店フォイルズでは、雑誌のコーナーではなく、料理のコーナーに「Food Magazine」というコーナーがあり、一面の壁に面置きで売られていました。フランスやオランダ、ドイツでも売られています。もちろんすべての書店というわけではないですが、各国まんべんなく見かけたのはKINFOLKだと思います。

そして何が特筆すべきかというと、本屋だけでなく、服屋や雑貨屋にも置いてあることです。これはKINFOLKが「ニューススタンド型雑誌」とは一線を画し、「ファッションの一部」として捉えられている証拠だと思います。
実際ヨーロッパでふらりと立ち寄った服屋でKINFOLKが置いてあると、「ある程度信用できるセレクトをしてるんだろうな」と思いました。KINFOLKを置いている店はおしゃれ、KINFOLKを読んでいる人はおしゃれという空気が作られていると思います。
アート系の本屋だけだと部数もたかが知れますが、もし世界中の服屋や雑貨屋にも置かれると考えると、かなりの部数が見込めます。そういう意味でKINFOLKはこれからの「雑誌」としての新たな可能性を示していると思います。

 

日本の雑誌は売られているのか?

日本の雑誌は売られているのか?どの本屋でも真っ先に確認したのはそこです。結論から言うと、基本は置かれていません。そして次の2つのみ、売られているのたまに見ました。Them magazineは置かれていることを期待しましたがColleteぐらいだったような…。

1、FRUiTS

出典:http://www.street-eo.com

出典:http://www.street-eo.com

この雑誌は96年に創刊された「原宿フリースタイル」をコンセプトにした雑誌です。原宿の、簡単に言うとおしゃれな格好をした女の子のスナップがたくさん載っている雑誌です。
すごく意外でした。もちろん日本でも存在自体は知っていましたが、そこまで注目はしていませんでした。作っている人たちが売り込みをかけているのか、日本の東京の「Kawaii」が含まれているからなのか分かりませんが、ヨーロッパのファッションスナップが載っている姉妹紙『STREET』でなく、原宿スナップの『FRUiTS』が売られるというのは意図的な気がします。英語は載っていなかったと思いますが、スナップだけで楽しめるというのが売っている要因だと思います。
帰ってから調べてみると編集長のとても面白いインタビュー記事が出てきました。まるで少し前に映画になったビル・カニンガムの原宿版ですね。

2、Union

出典:http://union-mag.com/

出典:http://union-mag.com/

スタイリストである百々千晴さんとHiroyuki Kuboさんが始めたインディペンデントマガジン。この雑誌はバイリンガルで作られていますし、日本でもトップクオリティの雑誌だと思うので不思議ではありませんでした。個人的には「もっと売られていてもいいのにな」という感じです。今後が楽しみです。

以上、次回はヨーロッパで知ったインディペンデントマガジンで、特に面白いと思ったものを紹介する予定です!