ヨーロッパの人気書店、4つの形態

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こんにちは。WYP 川口です。

WYPのデンマークでの取材を終え、せっかく高い飛行機代を払ったのだからそのまま帰るのはもったいない!ということで9月に1ヶ月間ヨーロッパ周遊を行いました。といっても、観光はせず、ひたすら本屋を巡りました。

最終的に8都市(ロンドン、パリ、ブリュッセル、アントワープ、アムステルダム、ベルリン、ミラノ、ローマ)、約70店舗の書店を見てきました。まだぐつぐつ煮ている最中なので今後変わっていくとは思いますが、自分なりに一度まとめてみたいと思います。
(細かい1軒1軒については、せっかくなので小さなZINEにまとめたいなぁと思っています。)

海外の人気書店の見つけ方

まず今回の本屋の対象について。以下の2つの方法で見つけています。

(1)『世界の夢の本屋さん』シリーズ(1~3)で掲載されている書店
(2)上記で載っていない、かつフォースクエアで「Bookshop」で検索してランキング上位にある書店

最初は海外の本屋なんて一体どうやって見つけよう…と悩んでいたんですが、「ロンドン 本屋」などで検索しながら、ちょっと考えていくうちに上記2つの方法が思いつきました。(1)『世界の夢の本屋さん』はWYPメンバーの近藤が持っていた本で、世界各国の素晴らしい本屋がたくさん掲載されていて、読むだけでわくわくする本です。(1)は大体(2)でも上位に入るんですが、たまに入ってないものがあります。フォースクエアに関してはまさにネットの時代だからこそ手に入る地元の情報。やっぱりとりあえずはじめてみると、始まる前には思いもしなかった方法が浮かんでくるものですね。(ちなみに東京で検索すると代官山蔦屋書店が一位になるのであながち間違っていないかと。)

さて、本題です。2~3回に分けて書きたいと思いますが、今回はヨーロッパで人気の本屋の形態について書きたいと思います。

文学寄りか、アート寄りか

ヨーロッパの人気書店を廻っていて、まず感じたのが「文学寄り」か「アート寄り」かが日本よりもはっきりしている、ということです。日本の書店は、小説も置いてあれば雑誌も置いてあって、写真集もあれば漫画もあって…といろいろな物がごちゃまぜに売ってあることが多いですが、今回見てきた各都市の人気書店はその特色がはっきりと分かれていました。

例えば、文学寄りのお店は雑誌が一つも置いてありません。規模としてはそれなりに大きいウォーターストーンズドーントブックスですら探しても見つかりませんでした。(これは、”雑誌”という概念が日本とヨーロッパで違うということもあるかもしれません。詳しくは次回以降書きたいと思います。)

そして、反対にアート寄りの書店は小説が一つも置いてありません。写真集やデザイン、インテリア、せいぜい映画に関するものが置いてあるぐらい。

何軒も見ているうちに、そのお店にパッと入った瞬間に(なんならWEBページを見ただけで)「文学寄りの本屋」か、「アート寄りの本屋」かがはっきりと分かりました。

※もちろん例外もあり、ロンドンのフォイルズやブリュッセルのクック&ブックは、日本でいうと代官山蔦屋書店のような、文学と最先端のアート・カルチャーの両方を取り入れていたと思います。

ブリュッセルの人気書店COOK&BOOKはレストラン兼本屋となっている。この建物は「Bloc B」であり、それだけでも普通の本屋3軒分ほどの大きさがあるが、なんとこの反対側にも同じような大きさの建物「Bloc A」がある。

ブリュッセルの人気書店COOK&BOOKはレストラン兼本屋となっている。この建物は「Bloc B」であり、それだけでも普通の本屋3軒分ほどの大きさがあるが、なんとこの反対側にも同じような大きさの建物「Bloc A」がある。

 

ヨーロッパの人気書店、四つの形態

そして、それぞれは次の四つの項目に分けられます。「A:大型」、「B:重鎮」、「C:アート」、「D:ライフスタイル提案型」です。文学寄りはA、Bが多く、アート寄りはC、Dが多いです。ざっくりと図にすると以下になります。

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A:大型
各都市で最大級の書店です。ロンドンで言えばウォーターストーンズ、ミラノで言えばHoepli、東京で言うところのジュンク堂池袋のような存在でしょうか。
本屋自体がかなりの大きさを持っていて、そこに行けばとりあえずどんなジャンルのものでも大抵揃っていて、場合によっては他の地域に(なんなら他の国にまで)支店を持っているようなところです。
本の物質としての価値は、ある程度まとまることで魅力を発揮すると思います。その圧倒的な量から、ただその場所にいるだけで自分の無知さを知り、刺激を受けることができるという「場所としての価値」です。その価値が人を惹き付けるのだと思います。

ミラノにあるHOEPLI。イタリアの大型書店であり、日本の大型書店と同じように各ジャンルまんべんなく置かれていた。

ミラノにあるHOEPLIはイタリアの大型書店。ミラノのど真ん中にあり、建物自体も3階建てとなっている。

B:重鎮
ヨーロッパならではの、100年以上前から存在する古い書店や、建物自体が文化遺産としての価値を持つようなところです。ロンドンの世界最古の書店ヘンリー・サザラン(なんと250年前からあるらしい!)や、パリの伝説の書店シェイクスピアアンドカンパニーなどがそうです。日本にこういう書店はあるんでしょうか…?この分野だけはすぐに思いつきません。
こういう書店が人気なのは、「本を買うため」というよりも、「A:大型」とは違う意味での「場所としての価値」があるからだと思います。
余談ですが、シェイクスピアアンドカンパニーの2階で子供たち向けのワークショップをやっていて、みんなで歌を歌っていたのが印象的でした。これだけ観光地になっても魅力を高めるための努力をしてるんだなぁと。

「伝説の書店」と呼ばれるシェイクスピア・アンド・カンパニーはパリのど真ん中にあり常に大勢の観光客で賑わう。

「伝説の書店」と呼ばれるシェイクスピア・アンド・カンパニー。パリのど真ん中にあり常に大勢の観光客で賑わう。

ロンドンのハッチャーズ書店。建物自体が美術館のような重厚なつくりとなっている。ロンドンにはこういった建物の書店が本当に多い。

C:アート
写真集を中心に、アート・カルチャーに興味がある人たちに向けて作られている書店です。一つの本が3000円以上するような本が多いです。最も世界的に有名な場所は、パリのコレットや、ミラノのディエチ・コルソ・コモ書店でしょうか。他には、タッシェンという出版社が運営する本屋もヨーロッパの各都市で見ました。日本では恵比寿にあるPOST、昔代官山にあったhacknetが一番近いと思います。
写真集は紙でみないと本当の魅力が分かりませんし、かつ所有欲を満たすために買う側面もあるので書店として存在する意味があるのだと思います。むしろ一般の人が本を買わなくなった今、”趣味としての本”となるこの分野が今後の”本”の中心になっていくかもしれません。ただ、日本ではアート系の本屋はヨーロッパほど一般の人に馴染みがない気がします。日本のほうがアートだけで書店を成り立たせるのが難しいのかもしれません。

ドイツの出版社タッシェンが運営する書店はヨーロッパの各都市にあり、普通の書店では売っていないような巨大な写真集などがたくさん売っている。

ドイツの出版社タッシェンが運営する書店。ヨーロッパの各都市にあり、普通の書店では売っていないような巨大な写真集などがたくさん売っている。

 

D:ライフスタイル提案型
本以外にも雑貨を置いていて、本を生活を豊かにするためのツールの一つとして提案しているようなところです。パリのアルタザート書店、ベルリンのGestalten Spaceなどがそうでした。東京でいうと渋谷にあるSHIBUYA PUBLISHING & BOOKSELLERS、下北沢にあるB&Bだと思います。ただし、一つ違うのは、SPBSやB&Bには小説などの読み物系も置いていますが、ヨーロッパのこれらの書店にはどの書店も置いていませんでした。

「D:ライフスタイル提案型」は、「C:アート」と重なるところもあるんですが、違いは本以外にも雑貨も数多く置いて、アートにそこまで興味がない人でも楽しめるようになっているところだと思います。「C:アート」への入門者向けの入り口、もしくはそこまでアートに興味はないけどワンランク上のライフスタイルを楽しむためにたまにはアートなものを買いたい、という人が利用するところかと思います。個人的にはこういう書店が一番好みです。

パリのアルタザート書店。店頭にはお店のワークショップで参加者が作った筆箱やバッグが並ぶ。店内にはFREITAGの取扱いも。

パリのアルタザート書店。店頭にはお店のワークショップで参加者が作った筆箱やバッグが並ぶ。店内にはFREITAGの取扱いも。

ロンドンの人気書店マグマブックスには、オリジナルTシャツからノート、ナノブロックなど様々な雑貨が販売されていた。

ロンドンの人気書店マグマブックスには、オリジナルTシャツからノート、ナノブロックなど様々な雑貨が売られる。 ミラノにあるCorraini Edizioni。絵からノート、置物など全体的にかわいいものが売られていた。

以上がヨーロッパの各都市の書店をみて思った、人気書店の4つの形態でした!

次回はWYPの分野にあたるインディペンデントマガジン、そして日本の漫画(ヨーロッパでも”Manga”として棚が作られています)の情勢について書きたいと思います。