Photography by MOTOKO
世界各地でこれからの生き方、働き方を模索しているWYP編集メンバー4人。
【WYPなう】は、それぞれの「今」についてメンバー同士インタビューをする企画です。
今回は、東京の会社を辞めて神奈川県真鶴町(まなづるまち)で地域の出版事業を立ち上げ最中の編集長 川口に、彼が移住先として選んだ真鶴という町について、そしてそこでどんな人々と出会ったかを聞きました。
▼前回の記事はこちら▼
新たな地域出版の形をつくる(2) 「自分の力で生きていく」に至るまで
「真鶴」ってどんなところ?
– まずは、「真鶴」がどんなところか簡単に説明してもらえますか?
都心からわずか1時間半に位置する港町で、人口は7700人ほどです。
熱海や湯河原といった人気の温泉街が近くにあるんですが、真鶴はとてもゆったりとした雰囲気が流れていて、どこか懐かしい感じがする町なんです。
でも実はつい最近まで人口は1万人いたんですけど、年々減っていて…。
–じゃあ町としては人口を増やそうとしている?
▲真鶴町の商店街▲
そこが少し難しくて、例えば東京に住んでいる人が移住してくるなら良いんですけど、近隣の町から移住してくるのであれば近隣の町同士での人口の取り合いになってしまう。だから単純に増やせばよいという雰囲気ではないですね。
それに、例えば移住してきた人に補助金を出したらたくさん人は来るかもしれないですが、補助金目当てで来た人は町自体には思い入れがないわけですよね。
これは僕個人の意見ですが、そういう人がたくさん来るよりも、人数は少なくても町が好きな人が増えたほうが、長い目で見たときに真鶴という場所にとってプラスだと思いますね。
–なるほど。一口に住民を増やすといっても色々課題があるんですね。
そうですね。真鶴ではバブルの時にマンション建設計画がたくさん持ち上がったときに、住民が「水がなくなってしまう」と反対したんです。
町にもともと住んでいる人が住めなくなってしまう、と。そこで当時の町長がつくったのが「水の条例」。それはある一定以上の規模のマンションには水を供給しない!というものなんです。
さらにその騒動が終わったあと、今後同じようなことが起きないように「美の基準」というデザインコードを含むまちづくり条例をつくって、元々真鶴が持っていた美しいものを守っていこうとしたんです。
–冷静に聞くと水を供給しないというのはすごい話ですが、その町を守ろうという心意気はかっこいいですね。ちなみに、今の目標人口は?
真鶴町は2020年で7200人にするという目標を掲げているみたいですね。つまり、今よりも500人減少に抑える。5年前は8000人を目標にしていたんですけど、下方修正したみたいです。
真鶴といえば◯◯
–より現実的な目標を据えたということなんですね。それでは次に、「真鶴といえばこれ!」というものを3つ、挙げてください。
観光的な視点で言うと、①三ツ石(真鶴半島の先端にあるパワースポット)、②魚(まじでうまい)、③貴船まつり、ですかね。
貴船まつりというのは年に1回曜日関係なく7/27と7/28に行われていて、世間では正月中心でまわっているのに対して真鶴では貴船まつりを中心にまわっている、と言うほどのビッグイベントなんです。1年で一番人が集まるのもこの時期ですね。
–おお、すごい!それで、どんな内容のまつりなんですか?
ここでは説明しきれないですが、見所としては神輿を担ぎながら海に入るところ。実際に体験しましたが途中から足がつかなくなって泳ぐことになります(笑)。港町ならではですよね。
それと、最後の日の夜に装飾をされた複数の船が海を渡るところです。夜の海の中にぽっかりと光る船が浮かぶだけで幻想的なのに、船から人がどんどん海に飛び込んでいくんですよ(笑)。危険でしかないんですが、そんな光景が異世界にいるように感じませてくれます。
そして、そんな中花火が上がる。船が神社まで渡り切ったら、今度は108段の階段を神輿が駆け上がる。圧巻です。こうして大漁や安全の祈願、そして海への感謝をしているんです。日本三大船祭りの一つらしいです。
▲貴船まつりの装飾された船▲
–うーん、だんだん真鶴に行ってみたくなりました。そういえば冒頭に少し真鶴はどこか懐かしい雰囲気のある町と言っていましたが、これまで真鶴を訪れた人たちも同じような印象を受けたのでしょうか?
実は面白いことに、真鶴に訪れた人がみんな「◯◯の町に似てる」と言うんですね。それはイタリアの漁村であったり、京都の舞鶴であったり、はたまたサンフランシスコのどこぞであったり。そんな不思議な町なんです。
真鶴に暮らす人々
–なんとも不思議ですね。そんな真鶴町にはどんな人々が住んでいるんですか?
ざっくり分けると、地生まれたときから真鶴に住んでいた人と、途中から真鶴に移住してきた人がいます。
–ざっくりですね。もともと真鶴に住んでいた人というのはどんな感じなんですか?
漁師っぽい気質なんです。言葉遣いとかが。あとは人見知りな人が多い気がしますね
–なるほど。それでは移住者は?
40代後半から50歳過ぎで、自分で仕事を持っている人、例えばアーティストや経営者、フリーランスのような人が多いです。通勤をする必要のない彼らにとって、首都からそんなに遠くなくて、湯河原や箱根よりも土地が安い真鶴は魅力的なのだと思います。
–アーティストとは具体的にどんな人たちですか?
最近では映像をつくっている人、陶芸家、音楽家などに会いました。
▲真鶴の近隣で活動する陶芸家のアトリエ▲
–漁師とアーティストが共生していて、どこか懐かしい雰囲気のあるノスタルジックな町とは、ほんとに不思議なところですね。それでは最後に、こんな人に真鶴に移住してほしい、というのがあれば一言お願いします。
自分で仕事をつくろうとしてる人に来てほしいですね。
もちろんどんな仕事でもいいですが、自分が好きなのは小商いです。スケールを求めるのではなくて、自分のできる範囲で自分の好きなことに挑戦する。そんな人たちが集まる町になって欲しいです。
それで、最終的には真鶴内で経済が回るようになったら最高ですね。八百屋があって、服屋があって、本屋があって……。それは高度経済成長前の日本に戻って欲しいという意味ではなくて、いまの社会向けにバージョンアップさせたものであって欲しいです。
昔ながらの商店街の復活でも、大型スーパーに頼る郊外型でもない、第三の形態をつくれたら、地方から日本が元気になっていくんじゃないかと思います。
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