『深い河』

愛を求めて、人生の意味を求めてインドへと向かう人々。自らの生きてきた時間をふり仰ぎ、母なる河ガンジスのほとりにたたずむとき、大いなる水の流れは人間たちを次の世に運ぶように包み込む。人と人とのふれ合いの声を力強い沈黙で受けとめ河は流れる。

 

今回は、いつものインド関連書籍とは一風変わった本を紹介します。遠藤周作の『深い河』という小説で、「キリスト教と日本人」という生涯のテーマを追いかけた彼の代表作の一つ。

 

インドに向かう日本人5名からなるツアー団。

一見するだけでは見えてこない、それぞれが抱える深い業。

それらがインドのガンジスにてほんの少しだけ交わり、人生の何たるかをそれぞれが感じた瞬間。

 

この小説で描かれたそれぞれの人々が持つ、他人とは交わらない・他人には見えない胸の内に、切なさともどかしさで苦しくなりました。しかし、この小説で描かれた世界こそ、人と人は分かり合えない部分を背負いあっているからこそ、私たちのいる社会の実態であり、だからこそ、人は優しくあるべきなんじゃないか。そんな事を思わずにはいられませんでした。

 

幾人かのエピソードの中でも特に感慨深かったのは、奥さんを無くした人の話。私自身、この4月から仕事が始まって、それに夢中になりそうな感覚も少しは味わってきて、でも将来を考えると結婚とのバランスとかも考えちゃう、、、そんな状況に置かれた今だからこそ、この人のエピソードが染みるのかな、なんて思ったりもしました。

そして何より、キリスト教徒でありながら、ヒンドゥー教徒の世界にも踏み込んでいくその姿勢と探究心を持った、遠藤周作という人物にも大きな魅力を感じました。最近個人的にも彼に惹かれ始め『沈黙』や『海と毒薬』などを読みました。インド関連ではないのでこちらでは紹介しませんが、いずれも彼独特の描き方や世界の切り取り方が印象的な作品でした。

最後に、心に残った幾つかの台詞をご紹介します。

「ヒンズー教徒は死体を焼いた場所に樹を植えるんです」「日本だって桜の木がそうです。吉野山の桜はすべて墓標の代わりだったし。死と植物は深い関係があるんです。

「さまざまな宗教があるが、それらはみな同一の地点に集まり通ずる様々な道である。同じ目的地に到達する限り、我々が異なった道をたどろうとかまわないではないか」

「信じられるのは、それぞれの人が、それぞれの辛さを背負って、深い河で祈っているこの光景です。」「その人たちを包んで、河が流れていることです。人間の河。人間の深い河の悲しみ。そのなかにわたくしもまじっています。」

 

@ryoichick