『インド 宗教の坩堝』

先週13日、インドの金融・経済の中心地ボンベイで連続爆弾テロが発生した。

死者が21人以上出ており、2008年に同地で発生し160人以上の死者を出した同時テロ以降最悪のテロとなっている。2008年のテロではパキスタンに拠点を置くイスラム過激派が関与しており、今回のテロも同様かはまだ不明となっているが、いずれにしても関係修復中であった両国の関係に影響を与える可能性が高いと報じられている。

クリケット・ワールドカップを機に両国関係が改善中であっただけに、多くの人が今回のテロに落胆したことだろう。

 そもそも、印パ対立はヒンドゥー教徒とイスラム教徒の対立を根源としており、インドにおけるイスラム教の歴史は8世紀にまで遡るほど古い。それから現代まで、イスラム教徒はインド人口の1割以上、優に1億人以上の規模に拡大し、マイノリティーとはいえ同国の経済・政治・社会に無視できないほどの影響力をもっている。それゆえ、印パ対立の解消はインドの今後の更なる経済発展への一つのキーポイントになることは間違いないだろう。

実はちょうど、先日『インド 宗教の坩堝』というインドにおける宗教について解説している本を読んだので今回のテロをより深く理解することができた。

そして、せっかくなので書評というか本著の内容を一部紹介したいと思う。

 インド=ヒンドゥー教というのはインドに興味がない人でも容易に連想することだろうが、

インドにはヒンドゥー教以外にイスラム教徒、キリスト教徒、仏教徒、ユダヤ教徒、シーク教徒、ジャイナ教徒、ゾロアスター教徒が主にある。

そしてもちろん各宗教は多種多様な特徴があるのだが、個人的に気になったのはインドの中では少数派でありながらもビジネス上手と言われている以下3つの宗教だ。

①  拝火(ゾロアスター教)教徒

社交的・勤勉・高い教育水準等の理由で拝火教徒には各界での成功者が多いといわれ、インド最大の財閥であるタタ財閥も拝火教徒である。ちなみに、信徒のほとんどが、今回のテロの舞台となったムンバイに住んでいる。

②シーク教徒

インド人といえば頭にターバンを巻いた人を想像する人が多いと思うが、あれはインドでわずか約2%のシーク教徒の特徴なのである。上記のゾロアスター教徒同様、ビジネス上手と言われており、マンモハーン・シン現首相もシーク教徒として知られている。

③ジャイナ教徒

殺生を禁じるジャイナ教徒は、漁業や狩猟はもちろん、農業でさえ職業規制があった。このためジャイナ教徒は、宝石や貴金属、金融業を扱う仕事につくことが圧倒的に多く、その結果としてインドの中でももっとも裕福なコミュニティのひとつと言われるようになった。

また、インドの多くの財閥、大企業経営者がヒンドゥー教徒でありながらも、ビジネスにおいてはジャイナ教徒の禁欲主義を重要視している傾向があるという。

 信仰している宗教が各職業・ビジネス分野の得意分野に影響する、という事実はすごく興味深く、今後もっと詳しく調べてみたいと思った。

 

 また、もうひとつ興味深かった事として、各宗教が多種多様であると同時にインドにおいては一つの共通点があるというのだ。

それは、奇妙なことに仏教徒を除く全ての宗教がインドにおいては上下関係がある階級社会になっているのだという。本来であれば、各宗教は神の前では「平等」という原則があるはずなのだが、この世界唯一のヒンドゥー世界と長きに渡り共生していく過程で、上下階層に分断されてしまった、とうのは大変興味深い事実である。

 この階級社会というインドに深く根付いている文化は、近年の同国の急成長に伴う貧富の格差拡大に大きく寄与しており、インドが「先進国」と呼ばれるようになるためには冒頭部の印パ問題同様、間違いなくこの問題を解決しなければいけないだろう。

しかし、本著によると厄介なことに当のインド人はカーストの問題を問題として認識していない(特にダリットに対する差別)、かつあまりこの話題について話し合いたがらない傾向がある、とのことだ。実際のところどうなのか、インドの若者はどう思っているのか、今度のインド現地取材に行った際に、現地人にインタビューして実情を自分の目・耳で確認してきたいと思った。

@sssyoshi